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実務家教員の必要性と教授不足

文部科学省は実務家教員を増やそうとしている

 

今から実務家教員を志望する者にとって、大学教員は衰退する職業ではない

 

少子化なので大学は衰退産業じゃないの、大学教員は先細りの職業じゃないの、というイメージを持たれるかもしれませんが、これから実務家教員を目指そうとするサラリーマンにとってはそんなことはありません。

現在、日本の4年制以上の大学数は793校です。少子化でばたばたつぶれているかというとそんなことはなく安定して推移しています(前年比新設1閉校2)。令和5年度文部科学省学校基本調査によれば、学生数は294万6千人で前年度を1万5千人上回り過去最大を記録しました。大学教員数は19万2千人で前年より1,232人増えています。これは、18歳人口は減っていますが大学進学率は増えているためです。特に女子の進学率向上が寄与しています。今後もこの傾向は続くため、大学数、大学教員数が急激に減ることはありません。少なくともあなたが転職してから定年を迎えるこれから15年くらいは微減ですが安泰です(そこから先は知りません)。オーストラリアの大学進学率が96%、アメリカ74%、OECD平均62%ですから日本もまだまだ進学率向上の余地があるのです。

 

実務家教員を増やすための文部科学省の”誘導“

 

文部科学省が大学に何かをさせようとする場合、直接指揮命令することはできません。法律や省令で定めればいいのですが、それらは大きな方向や基本を示すもので具体的なことを事細かく決めることにはなりません。そこで補助金を使って誘導する方法がとられます。

私立大学には私立大学等経常費補助金が支給されますが、交付要綱に「何をどれくらいやればどれくらい増やす」というのが事細かく(文部科学省が大学にやってほしいことが)列記されています。令和4年度に特にやってほしいことに割増しで出しますよ、という「私立大学等経常費補助金 配分基準別記8(特別補助)令和4年度」に実務家教員のことがあります。

「実務家教員もしくは実務経験のある教員等の登用、又は産学が緊密に連携した実践的なコース等の設定 

実務家教員もしくは実務経験のある教員等の登用、又は産学が緊密に連携した実践的なコース等の設定 実務家教員もしくは、実務経験のある教員等による授業科目等が設定されている。又は産業界や地方自治体等と協定書や覚書等の組織的な取り交わしを行い、連携した実践的なコースやカリキュラム等を設定している」いれば割増ししてくれます。

やってますよ、と言うエビデンスを示すために、例えば勤めていた大学の授業のシラバスには「実務経験のある教員による授業科目」という欄がありました。

 

なぜ文部科学省は実務家教員を増やそうとしているのか

 

文部科学省は経済界や政治家の要望を受けて、日本の大学を変えなければならないと考えています。

大学は数理・データサイエンス・AIの研究とそれを実際に社会で応用する教育にもっと力を入れなければならない。理系だけでなく文系の学生もこれらを勉強して、社会に即戦力となるDX人材を輩出してほしい。大学は地域の自治体や企業、団体と連携して地域社会や経済の課題を解決する中心になってほしい。内外の企業と連携して大学が保有する知的財産を活用し、新たなビジネスを生み出してほしい。海外ビジネスで通用するグローバル人材を育成してほしい。そしてこういうことは実務家教員ではない既存の教員(アカデミア教員)には不得意である、と思っているのです。

 

アカデミア教員というのは、学部を卒業後就職せずに大学院に進学して修士号、博士号をとり、民間や公的な研究所やシンクタンクなどで期限付きの研究員として研究し(留学などを経て)、大学に助教として採用され、講師、准教授を経て教授になった人のことです。世の中にはこうしてアカデミズムの中で生きてきた人にたいして浮世離れしているという偏見がありますし、経済界から、大学や教員はグローバル化など社会の変化に対応していない、ビジネスで即戦力になる人材を充分育成できていない、というような非難(それ自体いわれのない非難ですが)があります。それに対する文部科学省の解答の一つが「実務家教員を増やす」ということなのでしょう。

 

実務家教員ってどんな人?

 

例えばKKT大学のM教授は三菱商事出身で情報フロンティア学部経営情報学科でマーケティングを教えています(学位はMBA,工学博士)。彼は「やってみる経営学」を掲げ、大学のプロジェクトとして商店街と連携し、空き店舗でマーケティングを学ぶ学生が経営するカフェ(DKartCafe)を開いていました。それを「地方創生・大学プロジェクトによる地域活性化の研究」としてまとめています。

教育の一環として学生がすべて経営するカフェ、というのは実現し運営するために教育・研究の構想力とは別に、膨大な実務能力(商店街振興会との連携や調整、開店に向けての諸手続き・準備、学生への指導・管理、マーケティング、数値管理など)を必要とします(企業と違って部下がやってくれる、ということは無いので)。念のため、実務家教員に必要な実務の能力とは交渉も手続きも全部自分でやる能力の事で、管理職として命令して組織を率いて実現する能力ではありません(実務家教員に必要な能力については別の記事で詳しく説明します)。

そしてこのような社会性・コミュニケーション力が必要なことはアカデミア教員は苦手だろうと文部科学省は思っているのです(決してそんなことはないのですが。実務家教員でもアカデミア教員でも苦手な人は苦手だし、得意な人は得意です)。

 

実務家教員は講師・准教授でなく教授を目指したほうがいい

 

なぜなら、多くの大学で助教、講師、准教授がいても教授が足りないからです。大学設置基準では学生の収容定員に対して必要な教員の数が定められています。そしてその「半数以上は教授であること」と決められています。ところが教授はどんどん定年になったり他大学に移ったりしていなくなります。でも准教授から教授に昇格するためには、在籍年数や業績の制限があり、教授が足りないから即昇格、とはいかないのです。

有名大学なら他大学から引き抜けばいいのですが、普通の大学はなかなかそうもいきません。

だから即教授に採用するに十分な知識・スキルのある実務家教員が求められているのです(特に女性教授が不足しています。「教授等への女性登用の状況」「女性研究者の在籍状況」は補助金のポイントになります)。

 

ということで、実務家教員になるなら今がチャンスです。